日本・東京、2022年9月29日 – 化学業界のグローバル・リーダーであるSABICは、9月19日から21日にかけてスイスで開催されたECOC Exhibition 2022展において、コ・パッケージド光トランシーバーや光コネクターに用いられる射出成形レンズに最適な超耐熱性を備えた近赤外線(IR)透過グレードの「EXTEM™ RH1016UCL」樹脂を発表した。EXTEM RH1016UCL樹脂は、成形部品の寸法安定性を維持しながら、プリント基板(PCB)リフロー時のピーク温度260°Cに対する耐熱性を備えた赤外線透過グレードの熱可塑性樹脂である。この特性によって、光コネクターと他の部品を一括して実装可能となり、従来のリフローに対応していない材料に必要となっていた個別のアセンブリーおよびアライメントの工程を省くことができる。また、この新しいEXTEM樹脂は、短いサイクルタイムおよび高精度なマイクロ成形が可能なため、生産性の向上にも寄与する。さらに、EXTEM RH1016UCL樹脂は光学設計上の自由度と卓越した高耐熱性を合わせ持つため、従来のプラガブル光学部品からコ・パッケージド・オプティクス(CPO)への移行に取り組む顧客をサポートし、データセンターの処理速度、規模、およびエネルギー効率の向上に寄与する。SABICの新しいEXTEM RH1016UCL樹脂は、米国の大手テクノロジーOEMによって検証されている。
この新しいEXTEM RH1016UCL樹脂は、ECOC 2022展のInternational Symposium for Optical Interconnect in Data Centres(データセンターにおける光通信に関する国際シンポジウム)において、SABICの主任研究員であるガブリエ・ホグランド(Gabrie Hoogland)によるプレゼンテーション「Novel Thermoplastic Resins Well-Suited for Optical Interconnects(光通信に最適な革新的熱可塑性樹脂)」で紹介された。
SABICのスペシャリティー事業部でULTEMおよびEXTEM担当グローバルビジネスマネージャーであるフロリアン・ジャン(Florian Jung)は「コ・パッケージド・オプティクスは、光学部品とスイッチング部品を単一パッケージ基板上に搭載する混載実装技術です。この次世代技術は、メインスイッチングASICの近くに光学部品を配置することで、電力消費量とコストの削減が可能となり、データセンターの信頼性を高めることができます。しかしながら、コ・パッケージド・オプティクス用に複雑な小型レンズおよびアレイを製造するには、ガラスの設計、製造の拡張性やシステムコストの課題を克服できる新しい材料が必要です。
SABICの新しいEXTEM RH1016UCL樹脂はこれらのニーズに応えるとともに、この新しいテクノロジーの発展に貢献し、PCBの集積密度とエネルギー効率の向上に向けて新たな機会をもたらします」と話している。
光学部品を基板上に搭載
現在、データセンターはより広い帯域幅とより高速な通信速度に対する需要への対応に取り組んでおり、特にネットワークパケットスイッチングにおいては、電力使用量と遅延時間が課題となっている。コ・パッケージド・オプティクスは、この両方を低減可能なテクノロジーである。光コネクターをイーサネットスイッチング用の特定用途向け集積回路(ASIC)とコ・パッケージングしPCB上に搭載することで、これら部品間のインターフェース駆動に必要な電力を削減することができる。
プラガブル光学部品とは対照的に、コ・パッケージド・オプティクスは材料に厳しい要件が求められている。これらの材料には、最高260°Cの非常に高いリフロー温度をはじめとした、PCBアセンブリー工程で生じる負荷の中であっても形状を維持する性能が要求される。ガラスであればこうした熱に耐えられるが、ガラスを使用して複雑形状のレンズやアレイを製造することは困難であり、加えてこれらの部品は時間がかかる二次的な研削と研磨が必要となる。また、ガラス部品を成形することも可能だが、高額な上、生産規模の拡張も難しい。
画期的な超耐熱性熱可塑性樹脂
EXTEM RH1016UCL樹脂は、コ・パッケージド・オプティクスに対してさまざまな利点を提供する。本製品は熱可塑性樹脂であることから、複雑形状の設計や容易な部品統合が可能である。また、優れた流動性によって、薄肉設計および効率的な多数個取り成形も可能となる。さらに、EXTEM RH1016UCL樹脂は優れた寸法安定性および光学的安定性を発揮するため、PCBアセンブリー時における部品の変形を防ぎ、シグナルインテグリティ(SI、信号品質)を維持する。これらに加えて、EXTEM RH1016UCL樹脂は高屈折率および近赤外線透過性によって、レンズ性能を向上させることができる。EXTEM RH1016UCL樹脂は、光学システム設計ソフトウェアの業界標準となっているZemax OpticStudio®の材料データベースで光学定数が閲覧可能なため、光学設計者は新しい革新的な相互接続の設計に役立てることができる。
ガブリエ・ホグランドは「私たちは非常に高い耐熱性を備えた新しいEXTEM樹脂を開発しました。これによりPCBアセンブリーの前段階で、ASICチップの近くに熱可塑性樹脂レンズと光通信部品を配置できるようになりました。コ・パッケージングは、電子信号経路をできるだけ短く且つシームレスにすることで、非常に高速なデータ伝送を可能にします。EXTEM RH1016UCL樹脂を検討する顧客を支援するため、SABICのグローバルテクノロジーセンターでは、光学特性や定数、計測、リフロー安定性、高温高湿エージングなどの試験に用いる最新機器を含め、マイクロ成形に関するサポートを提供しています」と話している。
SABICはECOC展において、EXTEM RH1016UCL樹脂を用いて成形した非球面試験レンズ、マルチファイバープッシュオン(MPO)コネクターピンを備えたマウント型レンズアレイ、材料試験用の12レンズツールなどを展示紹介した。
また、SABICが最近発表したULTEM™ 3310TD樹脂を用いて成形した、シングルモード光ファイバーシステム用の光トランシーバーコリメーターレンズ向けの非球面試験レンズおよびレンズアレイも展示した。さらに、熱可塑性樹脂レンズの材料として数十年にわたって広く使用されているULTEM 1010樹脂製のプラガブルMPOコネクターも展示された。
この新しいEXTEM RH1016UCL樹脂は世界各地で購入可能である。